パート社員一人まで再就職するまで撤退しない「スーパーいなげや」

日本の流通業は今、未曾有の激動期です。人口減の中、オーバーストアーが続づき、安売り競争が当たり前になっています。また、流通外資の日本進出や、ICT(情報技術)革命を軸にしたネット型杜会の到来し、ネット通販との競争など、競争は激しくなり、且つ、複雑化しています。

ヤマダ電機の閉店のニュースが流れ、単に安さだけの訴求や、多店舗展開による成長が行き詰まり、業態変換に取り組んでいます。M&Aにより、巨大化したイオンも本業赤字から、同じく業態変換を図っています。

今、「いい会社」のつくり方といった本の執筆を始めていますが、ヤマダ電機やイオンはいい会社でしょうか?いい会社の定義も、イメージする像も人によって違うと思いますが、一つの側面からすれば、私自身は共感できないことがありますい。それは、儲からなかったら撤退するといった企業姿勢です。

東北で、食品メーカーの経営者150名ほどを集めた新春祝賀会の記念講演で、お話をしたことがあります。その際、ある食品メーカーの経営者が、食事の席で隣になりましたが、お話したことは、先に挙げた会社の撤退です。地方で大きな雇用を生み出すといった面では、プラスもありましたが、儲からないとなると、サッさと撤退してしまったそうです。以前あった商店街は、大きなダメージを受け、さらに、地方の雇用がなくなり、供給体制の整備にかけた費用など、かえって、地方経済にマイナスな影響となりました。

これを、経済活動だから仕方がない・・・と割り切れるかといえば、割り切れない気持ちになります。自分たちだけが儲かればいいのか?それば日本を代表する企業がやることか!といった感情を持つのは私だけではないと思います。








会社名株式会社 いなげや
住所東京都立川市栄町六丁目1番地の1
資本金8,981百万円
事業内容スーパーマーケット経営
代表者名成瀬 直人
従業員数2,213人(正社員)


イオン程の規模ではありませんが、真逆の判断をするスーパーがあります。
東京立川に東証一部上場企業で「いなげや」です。

いなげやは、116年続く老舗企業で、以下が経営理念です。

<経営理念>


すこやけくの実現~お客様の健康で豊かな、暖かい日常生活と、より健全な社会の実現に貢献する。
商人道の実践~お客様のお喜びを、自分自身の喜びとして感じることができる人間集団。

以前、雑誌の記事の取材で、成瀬社長にインタビューをしたことがありますが、何かがあると、判断する上での拠り所になっているそうです。

成瀬社長の話を聞いて、多くの共感を得ましたが、3点だけご紹介します。

いなげやの特徴1:厳しくなっても、絶対の雇用を守り、全員が再就職できるまで撤退しない

いなげやも高度成長期の時代には、一時期、関東制覇、全国制覇を目指して、埼玉や千葉にも出店したそうですが、うまくいかず撤退したりしたといったこともありました。大きな野望を持ってビジョンを設定してドライブにして取り組んだわけですが、全てが思うように行きません。しかし、撤退する際には、社是が従業員の幸せを常に一致せしむることがあるから、パートも含めて全員の次の働き場所が見つかるまで撤退しませんでした。そして、競合店へ頼みに行き、働き先の目処がついた後は、最低3か月以上の今まで毎月お支払していた月の収入を渡した上で、他店に移ってもらうといった対応をしました。

いなげやの特徴2 障がい者雇用を熱心に行う。

「すこやけくの実現」を経営理念とするいなげやでは、以前より障がい者雇用を地道にやっていました。そして、さらに力を入れるために、特例子会社を立ち上げ、具体的に4%の目標値を定めています。なぜ、4%かといえば、働ける人口の内、障がい者の割合が4%であったためです。企業の社会的責任として、まずは、少なくとも世の中の比率を目指そうといった理由でした。(現在、実際、4%を超えています)
障がい者が行っている仕事は基本的には店舗での雇用が中心です。統合失調症や人と接することが苦手な方は、知的と精神障がい者のチームをつくり朝六時半から一〇時半に商品陳列を行います。それ以外のメンバーは健常者と同様に販売接客も行っています。
特に、精神障がい者の方は本人の体力や症状などの状態に合わせて働く時間を設定しています。また、全店長にサービス介助士の資格(高齢者や障がい者に対する介助技術の資格)の取得を義務づけるなど、あくまでも障がい者にやさしい雇用を目指しています。
特例子会社いなげやウイングの高橋久尚社長は、ウイングの社員が働いている職場を回り、店長から「戦力になっているので、人事異動させないでくれ」と言われたことが嬉しかったと言います。さらに、最近は、農業が精神障がいの方にいいというので、シイタケやトマト栽培に取り組み、店舗で販売しています。

高橋社長は、この経営理念を実現するために、特例子会社設立後の一〇〇名を超える障がい者を採用する計画を立てています。そして、採用した障がい者の親が年齢を重ねて、障がいを持つ従業員が自立しなくてはならなくなったとしても、一人で生活できる月平均二五万円(障がい者年金含めて)の収入が得られ、将来を心配することなく安心して働ける会社を目指しているのです。

いなげやの特徴3:高齢者にやさしい新しい革新

いなげやは、食品や日用品を注文用紙や電話、インターネットで受注し、自宅に届けるサービスを始ました。来店が難しい高齢者や子育て世帯の需要を安さと利便性でつかみ、近隣客を狙って生鮮品や総菜を強化するコンビニエンスストアを、見かけるようになりましたが、いなげやは、足が不自由になるなど、買い物弱者と呼ばれる高齢者に対して宅配を行っています。名前は、「届くいなげや週刊配達便」というサービス名で、生活協同組合の宅配と同様に配達時に紙のカタログも届けています。インターネットでも注文できますがが、ITが苦手な高齢者のことを配慮し、電話やカタログに付けた注文用紙での受注を行って、自宅まで届けるなど、まさに、高齢者に優しいサービス、地域に密着したサービスを展開しています。

いい会社とは何か?今回の執筆を機会にしっかりと自分なりに整理して提案したいと思います。


【筆者プロフィール】
藤井正隆
株式会社イマージョン代表取締役社長

人を大切にする経営学会理事・事務局長


社会性と経済性を両立させた経営を実現している「いい会社」研究と変革支援がライフワーク。大学院の特任研究員として活動し年間100社以上の全国各地の優良企業を現場視察し、経営学を中心にそのメカニズムを研究。企業事例と理論を融合しわかり易く伝えている。

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