価値観と仕組みのマネジメントの融合

連載を始める小企業向けの雑誌「理念と経営」の執筆で、2年ほど前に、株式会社いなげや 成瀬直人社長にインタビューしたことがあります。








会社名株式会社 いなげや
住所東京都立川市栄町六丁目1番地の1
資本金8,981百万円
事業内容スーパーマーケット経営
代表者名成瀬 直人
従業員数2,213人(正社員)


株式会社いなげや(東京都立川市)は、113年の歴史を誇る 大手スーパーマーケットチェーンです。
創業者が大八車ひとつで鮮魚商を起こし、 いまや首都市圏に132店を展開するまでに成長を遂げています。その背景には、経営理念「すこやけくの実現」「商人道の実践」を軸に、 徹底して貫いてきた“お客様第一主義”の精神があります。

「これって結局、われわれがもうちょっと責任を持って仕事をしていかなきゃいけないということだよね」といたように、社員の頭が動き始めるんですね。
~中略~
「皆さんが大切にするのは、目の前の上司ではなくて、お店のお客様だよ」という話は随分していますね。我々は接客業をやっていますが、今の時代というのは、お客様というのがどうしても不在になります。三代目経営者の栄一は「商人道の実践で、お客様のお喜びを自分自身の喜びとして」と言いましたが、今の人たちは、そんなのはよく分からないわけです。「だから何なの?」みたいな感じの人もいます。それを、言葉を変えて、お客様の大切さを説いていくというのが、理念浸透の一番の入り口ですね。


 上司から言われたからこういうことをやるとか、本部から指示されたからやるとか。「じゃあ、本部から指示された売り場で、今のお客様は満足していると思うのか」と言うと、「いや、思いません」となる。「じゃあ、なんで変えないんだ」、「いや、上から言われるから」と。そんな考え方がまだまだあるわけです。「そうではなくて、お客様がいてのいなげやじゃないか、もう一回、お客様のことを考えようと」事あるごとに伝えています。今、一生懸命、毎月そういう話をしたり、あらゆる研修で、私が出てきて、理念の話を一時間くらいと繰り返しやります。

スーパーマーケットといえば、チェーンストアー理論、業務マニュアルに関する運営が一般的です。コストを下げるために、非正社員比率が高いのが他の業界との比較した特徴です。対面販売からセルフに変わったことが、マニュアル化が進んだ一因です。

あまり知られていませんが、いなげやは1956年(昭和31年)立川で、関東で初めてセルフサービス販売方式を採用しています。さらに、1976年(昭和51年) 第1流通センターを東京都立川市に移転(現・立川青果センター)、同年12月にODS(オープン・デイティング・システム:鮮度保証制度)を日本で最初に採用しています。

しかし、鮮度保証制度をつくれば、守られるか?とは別問題です。制度にして基準を設ければ、多くの人が働く店舗では、分かりやすく鮮度に関する知識がまだない新人でも運営ができます。つまり、人に依存しないで、物事の良し悪しを判断することで質を担保することができます。また、「時間短縮」や「コスト削減」といった効果も期待できます。

一方でこの「分かりやすさ」は正常な判断に必要な思考や行動を鈍らせる弊害も併せ持ち合わせているのです。賞味期限のラベルが貼られていれば大丈夫といったことになってしまうからです。本来はそこに人の必要な判断で質を担保する部分をマニュアルもしくは制度が補うことが重要です。また、マニュアル化、制度化は、お客様満足を低下させるだけにとどまらず、鮮度が低い商品を意識することなく売ってしまうといったリスクでもあります。現場を歩いていると、食品偽装が無くなっていないことを実感します。それは、心無い食品メーカーの日付改ざん、流通の現場でも、売れ残った商品の賞味期限シールの張り直しなども、まだまだ実際はあると思います。

マニュアル化、制度化は、便利さと同時に、人の判断を鈍らせる弊害も合わせ持つことを理解する必要があります。企業活動は、まさに、毎日毎時、その場その場の一人一人の判断の積み重ねです。だからこそ、成瀬社長が言うように、経営理念浸透の働き掛けで、社員一人一人が考えさせることが重要なのだと思います。

もう一つの観点は、社員のモチベーションです。毎日、マニュアル通りにやっていたら、マンネリ化してモチベーションが下がることは容易に想像できます。自社のことで恐縮ですが、イマージョンが提供する教育研修のプログラムは、上記のようなことがあるために、標準化して品質管理を行うと同時に、必ず自由裁量を残しています。これは、コンサルタントの判断力を高めて、お客様の満足を向上させることだけが目的ではありません。加えて、コンサルタントのモチベーションにも影響があるからです。毎回、マニュアル通りで繰り返し同じプログラムを行っていたら、飽きてしまうことは容易に想像できます。

経営理念による価値観のマネジメントとマニュアル化、制度化といった仕組みのマネジメントは、白か黒かの二者択一のものではありません。両方のマネジメントをうまく融合させていくことが重要と思います。

チェーンストアー理論、マニュアルの弊害が特に、最近、指摘されるようになり、様々な考え方が出てきています。無印ブランドの良品計画の業務基準書といった考え方も参考になると思います。


【筆者プロフィール】
藤井正隆
株式会社イマージョン代表取締役社長

人を大切にする経営学会理事・事務局長


社会性と経済性を両立させた経営を実現している「いい会社」研究と変革支援がライフワーク。大学院の特任研究員として活動し年間100社以上の全国各地の優良企業を現場視察し、経営学を中心にそのメカニズムを研究。企業事例と理論を融合しわかり易く伝えている。

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