赤字部門に宿る中村ブレイスの企業家精神

島根県益田から大田市大森町は、人口400名の過疎の町です。大森町には、日本でいちばん大切にしたい会社1で紹介された、世界中の足や手をなくした方、乳がんで乳房をなくした方に、フルオーダーメイドで人工物を作り続けている会社、中村ブレイスがあります。








会社名中村ブレイス株式会社
住所島根県大田市大森町ハ132
資本金2,000万円
事業内容義肢装具、人工乳房、人体補正具の製作、販売
代表者名中村俊郎
従業員数100人

【基本理念】
中村ブレイス株式会社は社是『THINK』を心がけ、常に広い視野(グローバルな視点)で「ものづくり」を考え、人に直接触れる製品を製作している者として「人にやさしいものづくり」、「地球にやさしいものづくり」を心がける。



以前、中村俊郎社長(以下中村社長)にお伺いした内容を元に、本に書いてあることとは違う観点で中村ブレイスの経営を考えてみたいと思います。

中村社長は、高校を出ると家庭の経済的な理由から京都の義足をつくる会社に就職します。その後、もっと勉強したいと、18歳から23歳までの5年間で貯めたお金で渡米してアメリカの義足の会社で働き、日本に戻って起業したのが、26歳の時で、今から40年以上前になります。

当時、アメリカの方が義足制作の技術は日本より進んでいましたから、東京や大阪といった都市でのお話もありましたが、あえて過疎化が進む大森町で起業しました。

起業して何度も試行錯誤を重ねますが、例えば、乳がんで乳房をなくした女性が満足できるレベルのものができません。遠くから足を運んできてくれた女性が口には出さないが満足していない様子を見てガッカリします。5年の歳月を重ね、且つ、実際に当時働いていた女性社員の方にも協力いただき、特別なシリコンをつかった人工乳房をつくり、触った感じ、見た感じがまったくわからないほどの人工乳房を完成させました。

お客様が喜ぶ顔を見て中村社長も嬉しかったし、社員の方も大喜びだったといいます。実際に、人工の指や足、乳房を手で取ってみましたが、生身の人間のものを変わらない。自分から言わないと分からない素晴らしいものでした。

しかし、私は、何かおかしいと思い、思い切って質問をしてみました。例えば、その人工乳房を6万~9万で販売していますが、社員の方が1つつくるのに1ヵ月掛かります。もちろん、色を付けた後の乾かす時間その他もありますので、同時並行で複数を作りますが、それでも採算が合っているかどうか不思議でたまらなかったからです。なぜ、こんなに立派なレトロな本社や研究所を建てて従業員を100人も雇用してできるのか?最近では、来社される方と石見銀山を訪れる方向けに宿泊施設をつくるなどできるのか・・・・。

お聞きしてみると赤字部門だとのことでした。では、どうして経営が成り立っているのかですが、開発した特別なシリコンは、世界主要9か国で特許を取っています。しかし、特許で利益を上げているのではなく同業者に積極的に販売権を提供し、今では全国で500社以上の同業者が中村ブレイスのシリコンを販売しているのです。1ヵ月1個販売したとしても安定的に500個売れます。こちらはある程度、量産が見込めるので、フルオーダーメイドで1個1個つくる、個別対応の人工乳房とは異なります。つまり、フルオーダーの商品サービスは赤字でも、レディーメイドのものは黒字で土台となっているのです。

本田宗一郎が挑戦したホンダのF1参戦が赤字であったことは有名です。さすがに、赤字のまま続ける余裕がなくなったのか、今から10年前の2006年、F1から撤退しました。幸い、ホンダは、そのDNAの強さから、飛行機まで作って販売する会社です。

私自身、赤字だからといって簡単にやめてしまうことは、慎重に考える必要があると思います。企業には「健全な赤字部門が必要だ」という考え方があります。
なぜなら、「健全な赤字部門」が企業家精神を支えるからです。健全な赤字部門を切るということは、企業家精神を支えるものが無くなってしまうことになりかねないのです。

中村ブレイスのオーダーメイドの赤字部門は、まさに、中村ブレイスであり、他の義肢メーカーとの違いを象徴する企業家精神のシンボルなのだと思います。


【筆者プロフィール】
藤井正隆
株式会社イマージョン代表取締役社長

人を大切にする経営学会理事・事務局長


社会性と経済性を両立させた経営を実現している「いい会社」研究と変革支援がライフワーク。大学院の特任研究員として活動し年間100社以上の全国各地の優良企業を現場視察し、経営学を中心にそのメカニズムを研究。企業事例と理論を融合しわかり易く伝えている。

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